No.154
仕立てとは“対話”であり、“出会い”である。
― 理想のブラウンスーツにたどり着くまで ―
対話から生まれる、一着の物語。
スーツの仕立てとは、ただ身体に合わせることではありません。
それは、「どんな自分でありたいか」を探す時間であり、
テーラーとお客様の間に生まれる“静かな対話”の積み重ねです。
ブラウンへの、長い探求。
お客様は長く、心に描くブラウンを探しておられました。
私たちはいつも、「生地との出会いは一期一会です」とお伝えしています。
シーズンごとに多くの新作が登場しますが、
その方の感性にぴたりと寄り添う色を見つけることは、私たちにとって何よりの喜びです。
“思い”を汲み取り、静かに重ねる。
お客様の思いを丁寧に汲み取りながら、
お客様が思い描いてこられた理想に、
CAMPANELLAらしい“遊び心”を静かに重ねていく。
その小さな提案が、新しい発見へとつながることもあります。
ある日、新しいブックをめくると、
お客様との会話が思い浮かぶようなブラウンが目に飛び込んできました。
「この色ならきっと、お客様が探しておられたものに近いはず」
そう確信し、ご連絡を差し上げました。
対話が導く、理想の形。
ご覧いただいた瞬間、お客様の表情に“これだ”という確信が浮かびました。
お色がご希望にぴったりだったのです。
長く仕立てを愉しんでこられたお客様。
その美意識には、確かな輪郭と静かな一貫性がありました。
その世界を尊重しながら、CAMPANELLAとしての解釈を、細部にそっと重ねていきました。
既製服にはない、自由と余白。
既製服の世界では、「売れる色」「流行の色」が大量に並びます。
けれど、オーダーは違います。
自分の感性が求める色、
自分だけのニュアンスを纏うことができる。
それは、単に服を作るのではなく、
自分を表現する自由を持つということです。
“仕立て”という名の記憶。
CAMPANELLAではスーツに限らず、
ジャケット、パンツ、コートといったあらゆるアイテムを、
お客様のライフスタイルに合わせて仕立てています。
どの一着も、ひとつの“対話の記録”です。
生地を選ぶことは、対話を重ねること。
対話を重ねることは、自分を知ること。
だからこそ、仕立てとは“対話”であり、そして“出会い”なのです。
色が語る、信頼のかたち。
近年の研究では、服の色の「明るさ(value)」が、
人の信頼感に強く影響することが示されています。
一般的には、落ち着いた中間〜低明度の色ほど、誠実で安定した印象を与えると言われます。
けれど、それはCAMPANELLAの解釈とは少し異なります。
本当の信頼は、色の明るさだけでは測れない。
その人の立ち居振る舞い、声のトーン、纏う空気——
それらがすべて混ざり合って初めて、色は意味を帯びると思うのです。
今回お仕立てしたのは、明るいトーンのブラウン。
軽やかなだけではなく、積み重ねた時間と信頼が滲む、成熟の明るさでした。
仕立て上がったスーツを纏ったお姿には、
揺るぎない自信と、しなやかな柔軟さが同居していました。
人が色に信頼を委ねるのではなく、
信頼がその人の色を成立させる。
それが、CAMPANELLAの考える“仕立ての本質”です。
参考文献:Fan, J. et al. (2022). Influence of Clothing Color Value on Trust Perception.
International Journal of Engineering Research & Technology (IJERT).

